「風に舞いあがるビニールシート」感想(ネタバレ注意)

こんにちは、めたくZhangです。

今日は、森 絵都さん作「風に舞いあがるビニールシート」の感想を綴ります。

f:id:metaku_chan:20230923095522j:image

この本は、「架空の球を追う」「DIVE‼︎」映画化もされた「カラフル」の著者、森 絵都さんによって描かれた「自分だけの価値観を守って、お金よりも大事な何かのために懸命に努力し、近づこうと頑張って生きる人たち」の短編集。他の作品と比べると少し大人向け。全部で6編です。

森さんは、絵本・エッセイ・アニメ脚本・作詞など、さまざまな方面で活躍されていて、代表作の「カラフル」を読んだことのある方も多いのではないでしょうか。今回は、全6編の中から本のタイトルにもなっている「風に舞いあがるビニールシート」というお話をご紹介します。

簡単なあらすじ

「風に舞いあがるビニールシート」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|森絵都 | 小説あらすじ&ネタバレ情報局からの引用)

外資投資銀行のディーラーからUNHCRの一般職員に転職を果たした里佳は、上司のエドとひょんなことから恋愛関係に発展し、結婚に至ります。幸せに浸る間もなく、パートナーのエドは、危険がともなうフィールドの地へ活動拠点を移し、二人は離れ離れに。愛するがゆえにエドに戻ってきて欲しい里佳でしたが、エドはフィールド活動に命を燃やし、里佳の希望を聞き入れません。そして決定的な事件が起こってしまいます。

感想

里佳はエドにぬくもりを教えたかった。エドの特別になりたかった。

エドは、裕福で特権意識の強い両親のもとに生まれ、誰の肌の温もりも知らずに育ちました。だから、誰でも他人のように感じ触れ合うことを拒み(もしくは怯え)本来ならば安らぎを与えるはずの全てが逆に彼を戸惑わせ、脅かすのだと思います。そして、里佳に前妻のことを話す時「夫婦も他人である」と話し、さらに里佳と交わった後ですら、肌が触れ合っている間は、決して眠りに落ちないのです。そんなどこか他人を切り離しているような、一番生身の柔らかい部分は誰にも触れさせないような彼の特別に、里佳はなりたかった。エドの殻を溶かしてその内側に入りたかった。結婚すれば前妻と同じ結果を辿ると分かっていながら、私は里佳の気持ちに強く共感してしまいました。どうすれば彼に愛しぬかれ、彼を愛しぬけたのだろう。彼の核心に近づくためには彼の価値観を尊重しなければなりません。でも里佳は、少ししか彼と共に過ごせないことへの焦りもあり、早急にエドの考えを変えようと奮闘しました。その結果、二人は離れることになります。

エドを愛するが故の里佳の行動が空回りする様は、読んでいてとても辛かったです。そして、エドの他人のぬくもりに怯える気持ちにも痛いほど共感しました。エドは酒に満たされないのと同じように、里佳と肌を重ねながらも飢えが満ちることはありませんでした。「こんな自分がぬくぬくと他人を愛していていいのか、愛されていいのか、酒に酔ってもいいのか、今もフィールドには風に舞いあがり、取り返しがつかなくなりそうな命があるのに?」そう彼が思っているように感じました。

僕らの責任。もしくは、贖罪。

エドはいいます。

「僕はいろんな国のキャンプで、ビニールシートみたいに軽々と吹きとばされていくものたちを見てきたんだ。人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートみたいに簡単に舞いあがり、もみくしゃになって飛ばされていくところを、さ。暴力的な風が吹いたとき、真っ先に飛ばされるのは弱い立場の人たちだ。老人や女性や子供、それに生まれて間もない赤ん坊たちだ。誰かが手をさしのべて助けなければならない。どれだけ手があっても足りないほどなんだ。だから僕は思うんだよ、自分の子供を育てる時間や労力があるのなら、すでに生まれた彼らのためにそれを捧げるべきだって。それが、富める者ばかりがますます富んでいくこの世界のシステムに加担している僕らの責任だって」

私は、「幸せ」とは相対的に決まるものだと思っています。キャンプの現状を見ている彼にとって、今の自分は十分幸せだと思わざるを得ないのでしょう。身近に例えるなら、ヤングケアラーのような感じでしょうか。家族だから自分が、障がいがあるからサポートしないと、と、自分の権利を蔑ろにして他人に頼れない子供のように、彼はなってしまっているのかもしれないなと思いました。

別れる直前に手を握っていた彼は、何を思っていたのでしょうか。彼のビニールシートは飛んでいってしまったのでしょうか。最期にぬくもりを素直に感じることはできたのでしょうか。彼は最期、幸せだったのでしょうか。作中で、エドのモノローグは出てきません。里佳も読者も彼を完全にわかることはできません。それでも里佳は最後、アフガンへ行く事を選びます。その次への一歩を踏み出す結末はとても美しいと感じました。

この「風に舞いあがるビニールシート」は、難民問題や幸せのあり方についてよく考えさせられる話だと思います。もっと感想を書きたかったのですが、文章がごちゃごちゃになるので断念しました。もっと上手く書けるようになりたい…😭

他のお話も考えさせられる、でも前向きになれるものばかりなので、せひ皆さんも読んでみてください。そして、できれば感想教えてください😉最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

Amazonの商品ページに飛ぶリンクです↓

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫) | 森 絵都 |本 | 通販 | Amazon